ナカジマ杓子
皆さん予想なさった通り、ほら題名にある通り、舞台は鬼が島である。
諸行無常の理通り、ここにも滅びが訪れる。
もたらされるは一つの予言。島一番のシャーマン鬼が、朝一番に大声上げた。
「やっべえ、マジビビったー。この島滅ぶかも、みたいな? なんか島で犬、雉、猿が暴れてる、刀を挿した侍もいるみたいな? そんな感じの超ワイルドな夢みちまったー!」
「そりゃ桃太郎だよ! 俺、爺ちゃんから聞いてんだ。お爺さん山へ芝刈りに、おばあさん川へ洗濯に行ったら絶対気をつけろって。ほら十年ちょっと前ぐらい、それが観測されたって、ここ大騒ぎになってたじゃねえか! お前、忘れちまったのか?」
「だがばあさんは、その時に、桃を拾わなかったはずだ。そう確認がされたからこそ、我々は安心してたんだ」
「あのときゃ気付かなかったけれど、たぶん拾っていたんだよ! 俺らは一回スルーしてるのだけ見て喜でたけれど、その後は確認していない。逃した大きな桃追って、下流に追いかけてったんだって! 後から惜しくなったんだ」
「げに恐ろしきは、老婆の執念。我々の目をかいくぐるとは!」
「終わったことは仕方ない。すぐに急いで対策を練ろう」
そして会議が始まった。
「どないしよ」
「軍備増強、スパイ増員、籠城用の食糧確保、どれから手を付けたらいいか……」
「そんなことよりやることがある!」
若手の鬼が手を挙げた。
「このパンツの柄はどうかと思う。黄色と黒の縞々で。これじゃあ遠くからでも見えて、絶対奇襲が成功しない。いくら地の利があったって、我々の居場所丸見えだ!」
この論点にはみんな黙った。見るべきものがあったから。
「だが鬼のパンツを讃える歌じゃ、『とらのけがわでできている、つよいぞ、つよいぞ』と歌われていて、この材質は変えられないよ」
「柄には言及されていない。虎の毛皮から作れば、柄は何でもいいのでは。形状だって変えたらいいさ」
これに一同色めき立った。
「せっかくだから、白にしようよ! 何せ清潔感がある。戦地で気を付けるべきは病気。それの予防にもってこい! 迷彩よりも白がいい」
「俺はボクサーパンツが欲しい。ボクサーみたいに戦うからさ」
「ブリーフ一回履いてみたい。黄色地に、水玉模様」
「トランクスだよ。トランクス。名前が格好いいじゃないかよ。ドラゴンボールにもでていたし、トランクスなら士気が上がるさ」
さあ会場は大盛り上がり、誰も彼もが大声上げた。リーダー格の鬼が言う。
「生産ラインの関係で、そんなに種類が作れないから、ファッションショーを開催し、制服とするパンツ決めよう。各々一番いいと思う、パンツをアピールしておくれ」
この宣言がなされるや否や、鬼たち一目散に帰宅し、ホームメイドのパンツを作る。大きな指で挟みチョキチョキ、針とか糸が飛ぶように売れる。足りない材料浜辺で拾う。漂着物やピンクの貝殻、アクセントにはぴったりだった。はぎれがそこら中に捨てられた。
そして候補者が出そろい、パンツ一丁ランウェイ歩く。お椀を股間につけたのや(防御力強化)、ウニをいっぱい貼り付けたのや(攻撃力強化)、箸を一対差し込んだのや(意味不明)、それぞれ意匠が凝らしてあった。
しかし、最後の一匹がすごい。なんと西洋式のパンツを、まるで水泳帽のごと、すぽりと頭にかぶっていた! (腰は寅縞パンツのまま)。
彼は静かに語りかけた。
「どうして西洋式パンツには二つ穴が空いている? この疑問を考えたことがあるのか、お前たちは。足を通すためか? 腕を通すためか? いや、違う! ここに空いた二つの穴は、二本の角を通すのに、最も理想的なのだ!」
もう完全に盲点だった。確かに、とみんな思った。これでコスチュームは決まったぞ、彼らは大喜びだった。パンツを被ると目が隠れ、視界が悪くなるというのに。
次は、犬、雉、猿の攻略。桃太郎が接触する前に、なんとか各個撃破したい。きびだんごさえもらわなければ、奴らはただの犬畜生。か弱いうちに倒したかった。
ここで問題となるのは、どの犬、どの雉、どの猿が、桃太郎の味方となるか、鬼たちに分からなかったこと。仕方がないので大急ぎ、周辺一帯の犬、雉、猿を、まとめて根こそぎ捕まえて、鬼ヶ島奥に閉じ込めた。数センチ程度の間隔で、鉄格子の嵌まった檻へ、動物たちを放り込む。殺すべきだと意見も出たが、生態系への影響考慮し、桃太郎がやられた後は、全部野に帰すことにした。本音を言うと、保護団体が怖かった。
ずんずん進む桃太郎対策。最後の仕上げに、やるべきことは。またも会議で斬新な意見。
「俺たちも、きびだんご作ったらいいと思いまーす!」
なるほど、敵の必殺武器を、こちらも使用するわけか。なかなかいいアイデアに思えた。
ちょうど五月の下旬であった。鬼たち棍棒を鋤に持ち替え、パワー活かして畑耕す。1メートルあたりに200粒、2センチ程度土をかぶせて、早く大きくなってくれ、お天道様に好天祈る。雨の日、風の日、休むことなく、せっせせっせと草むしり。大声上げてスズメ追っ払い、しかるべき時期にしっかり間引く。
「桃太郎のおばあさんってすげえな」
「きびだんごって、作るの大変なんだな」
「そりゃ百人力にもなろうというものさ」
「汗でパンツが顔に張り付くぜ」
遂に九月がやってきて、お待ちかねだよ収穫タイム。とったそばからミキサーで挽き、もちきび作り、水につけたら白玉粉入れ、小さく割って手で丸め、お湯に投入、浮かべば完成。あとは黄な粉をかけるだけ。
山ほどのきびだんごを準備して、しっかりパンツを目深にかぶり、鬼たちは桃太郎を待った。
さて、実は。
桃太郎などいなかった。おばあさんは桃拾っていない。観測結果に間違いはない。
真の脅威は別のところに。
お椀の船に、お箸の櫂で、海を渡ってきた一寸法師。腰には刀をさしている。
こっそり鬼ヶ島へ上陸し、パンツのはぎれの山に隠れて、ぬくぬく半年ほど潜伏。
鬼の作ったきびだんご盗み、鉄の格子の隙間を抜けて、とらわれていた犬雉猿に、少しずつそれを差し入れた。
団子が十分いきわたったら、遂に決起の時はきた。
動物たちの檻の鍵、全部盗んですたこら逃げる。
さすがに気づいた鬼たちは、追うが、被ったパンツのせいで、視界が悪く、見失う。
一寸法師は鍵を開け、犬、雉、猿は解放された。
むろん全員百人力で。
かくして鬼ヶ島は滅んだ。
彼らの冥福を祈る。
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