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思い出の味(2021 7)

 

注意 現状の食生活に不満がある人が読むとつらくなります。


・穴子丼

 私は四歳ごろにウナギの骨がのどに刺さって、しばらくウナギが食べられなくなった。だから、母親はウナギの代わりに穴子で穴子丼を作ってくれた。細長く刻んだ穴子と炒り卵を、炊き立てのご飯に載せたものである。炒り卵は外はカリカリで中はとろとろで、甘辛いタレとよく合っていた。ウナギが怖くなくなっても、私はその穴子丼が好きだった。


・茄子の肉みそ炒め

 私が初めて人のために作った料理である。一回生のとき、父が下宿に泊まりに来た。父は外で飲んできた後に、おつまみが食べたいと言い出した。そのとき、ちょうど母親が送ってくれた肉みそと、スーパーで買った茄子があったので、私はそれで肉みそ炒めを作った。父は私が料理しているのをもの珍しそうに見ていた。そして、父と二人でそれを食べて、夜遅くまでいろんな話をしていた。誰かのために料理をするのもいいなあと思った。


・ラーメン

 修学旅行で友と食べた。高校の修学旅行では、シンガポール空港で六時間ほど待った。そのときに、私は友とラーメンを食べていた。普通の塩ラーメンだったが、友と外食するのは初めてだったので、何ともうれしかった。その後、友と遊びに行くたびに、昼食か夕食にはラーメンを食べる。そのたびに、修学旅行の話をして、いろいろな思い出がよみがえる。そして、お互いの現況を報告しては、友が夢を語る姿をまぶしく思った。


・恵方巻

 祖母は節分に恵方巻を作った。卵焼き、アナゴ、キュウリ、しそなどを巻いたものである。帰宅後に皆で恵方を向いて、無言で食べた。しそとのりの香り、卵焼きの味がたまらない。だが、トイレットペーパーの芯ほど太いので、食べるのが大変である。食べ終わると、「なんかケンカ中みたい」と言って笑った。


・ヤマザキのアンパン、さんま

 小学生のころ、私は母の実家で母の帰宅を待っていた。そこでは、曾祖母、祖母と一緒におやつを食べていた。そこでは、しばしばヤマザキのアンパンがよく出た。曾祖母はそれが好きだった。母親の帰りが遅くなると、夕食までいただいていた。曾祖母は特にさんまが好きだった。曾祖母が亡くなると、しばしば仏壇にそれらを供えた。私がそれらを仏壇から下げて食べるときには、祖母は「きっとあんたのこと見ててくれてるで」と言っていた。


・ほうれん草のおひたし

 私は卒論でかなり弱ったので、実家にしばらく滞在することになった。その間、父方の祖父母としばしば昼食を食べた。昼食のたびに、祖母はほうれん草のおひたしをしばしば作ってくれた。とれたてのほうれん草をゆでて、しょう油であえただけだが、いくらでも食べられた。卒論を書いている間は、自分を大事にできなくなっていたが、実家で生活していると、少しは自己肯定感が戻ってきた。誰かが自分のために食事を作ってくれること、誰かと一緒に食事ができることが、いかにありがたいことかよくわかった。


・ワサビふりかけ

 寝込んだときに、おじやにワサビ味のふりかけをかけて食べた。ピリリと辛

い味が、薄味のおじやとよく合っていた。食べていると、母親がそれについての思い出を話した。私がおなかにいるときにつわりがひどく、ワサビふりかけでご飯を食べていたという。ワサビふりかけを食べると、いつもその話を思い出す。


・大根鍋

 大根をかつら剥きにし、豚肉、葱などの具材と煮たものである。大根にキ

ムチのもとやラー油をかけて食べた。甘い大根に豚肉の味がしみこみ、トウガラシの辛味が刺激を加えた。年末に兄が帰省すると、家族でこれを囲んで、わいわいと話し込んだ。だが、コロナ以来、兄と食事を囲んでいない。


あとがき

 最近、一度に大量に食べたり、ほとんど食べなかったり、摂食に異常をきたしつつある。そのような中で、食べ物の記憶を思い出して書いてみた。私の中では、食べることは幸せな記憶と結びついていた。思うに、作ってくれる人、一緒に食べる人との楽しい記憶が、食べた記憶をすばらしいものにしているのだろう。

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