◎警告 今の食生活に不満のある方が読むとつらくなります。特に下宿生。
私は幼い時からおいしいものを食べて育ってきた。母親の仕事の関係で、祖父母宅でよく夕食を食べさせてもらった。母親は忙しいながらも、時間があれば料理をして、おいしい食事を作ってくれた。その記憶はいまも鮮やかに残っている。
・佃煮おにぎり
祖母は学校帰りの私を呼びとめ、温かいお茶と佃煮のおにぎり(炊き立てご飯)をよく出してくれた。祖母はしょう油味のさまざまな佃煮を作った。タケノコの佃煮は細かく切ったタケノコに、山椒の実を少し混ぜてアクセントにしていた。フキの佃煮はフキを真っ黒になるまで味付けて、ほんの少しの苦みがあった。しその実の佃煮は実をしっかり炒めてあって、食べるとしその香りがした。食べ終わると、祖母はその佃煮をタッパーに入れて、私の家用に分けてくれた。
・鯖寿司
祖母は初夏に鯖寿司をすし桶いっぱいに作った。祖母は鯖一匹一匹を開き、一口大に切って、酢につけた。それを握ってすし桶いっぱいに並べた。ほどよいさっぱりとした酸味があって、しょう油なしで十分おいしかった。祖母は学校帰りの私を呼んで、皿にたくさんのせて、私の家にわけてくれた。
・カツ丼
夏休み中、母の仕事中は祖父母宅に預けられていた。祖母は私のために夏にカツ丼を作ってくれた。揚げたてのカツを甘辛い半熟卵でとじてあって、カリカリの衣に半熟卵がよくしみこんでいた。祖母は汗だくになりながら、私の食べている横で次々とカツを揚げていた。
・カレー
幼いころから祖母のカレーを食べなれていた。今でも私が帰省すると、祖母は必ずカレーを作ってくれる。祖母はニンニク、ジャガイモ、牛すじを二三日煮て、しっかりと下準備する。ニンニクが強く香り、コクが深い。具材は大きめに切ってあって、食べ応えも十分である。
・お好み焼き
受験まで数週間の雪の降る昼、祖父母宅でお好み焼きを食べた。熱々の生地に大量のかつお節とソースがかかっていた。キャベツは甘みがあり、香ばしかった。生地の中に、牛すじ、ソーセージなどの具がたくさん入っていた。受験を思って気分が沈んでいたが、これを食べながら祖父母と話していると少しは楽になった。
・かぼちゃスープ
祖母は冬によくかぼちゃスープを出してくれた。祖父が家庭菜園で作った細長いかぼちゃを使っていた。とろとろだが、かぼちゃのかたまりがごろごろ残り、食べ応えがあった。甘くまろやかなかぼちゃに、玉葱、ソーセージなどの具材の味、こしょうのピリ辛がよくきいていた。最後にはご飯を入れて完食し、体の芯まで温まった。
・カレースープ
母は試験前になると必ずこれを作ってくれた。玉ねぎを炒め、それにカ
レー粉などのスパイスを入れ、カレールウの原形のようなものを作る。そ
こに鶏肉、ニンジンなどの具材を入れ、スープにする。一口飲むと、玉葱
の深い味、スパイスの刺激、具材のだしの味が口いっぱいに広がる。普通
のカレーとは全く違うカレーである。試験前日の夕食、当日の朝食、私は
これを飲んでテストを受けていた。
・ゼリー・プリン
母は忙しいながらも、少なくとも月に一度、週末にはゼリーやプリンを
作ってくれた。飽きないようにいろいろなレパートリーがあった。プリン
は手作りカラメルのほのかな苦みが味を引き立てていた。日曜にゼリーや
プリンがあると、水曜日まで毎晩夕食のデザートに出てきた。それだけ一
週間の支えになった。
・カレー鶏
母は餅つきの昼食に必ずこれを出した。年末に父の実家での餅つきをす
る。その日の昼食は作業場で餅とおかずをつまむ。母はそこでカレー粉を
かけて焼いた鶏肉を持ってきてくれる。あんやきなこの甘い餅ばかり食べ
ていたから、ピリ辛の鶏はありがたい。
・担々鍋
担々麵スープ風のつゆを使った鍋である。母は出町柳の燕燕という店の
担々麵スープの味を再現して、このメニューを考案した。ゴマやミソを主
としたスープに、豚肉、鶏団子、もやし、葱、豆腐などの具を入れて煮込
んであった。食べるときにラー油を入れると、担々麵のスープそっくりな
味になった。「あの店の味や」と言いながら、家族わいわいと食べていた。
・スタミナ納豆
鶏そぼろとしょうがと納豆を混ぜたものである。母は秘密のケンミンシ
ョーで出てきたこれをメニューに取り入れた。塩味の鶏そぼろと納豆はよ
くあっていて、丼いっぱいにかけて食べた。
・鯛の塩焼き
私の誕生日になると、大叔父は鯛を釣って送ってくれた。祖母はそれを塩焼きにして出してくれた。カリカリの皮、香ばしい鯛の香りがすばらしかった。大叔父は私が小学校のときに亡くなった。あの鯛ほどおいしいものはなかった。
制作裏話
最近ふとすると食べ物のことを考えてしまうので、食べ物について書いた。飢えてはいない。書いて三つのことを思った。一つ目に、私は大事に育てられていたこと。二つ目に、食品の描写は難しいこと。三つ目に、食べ物の記憶はリアルに残ることである。
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