気になっている言葉

私が最近気になっている言葉について書く。

・顔偏差値

　集団に美人がいる割合を、世間では俗に顔偏差値と呼び、「○○坂は顔偏差値が高い」などという形で用いる。偏差値は数値化できないととれないはずであるのに、顔という数値化しがたいものを偏差値と表現するのは語義矛盾だ。また、顔偏差値はあまりに身もふたもない表現に見えるから普通に「美人が多い」と表現してはどうか。

・韓国語講座・ハングル講座

テレビや語学教材では朝鮮語と言わずに、韓国語やハングルという。世間の人にとっては朝鮮という言葉が差別語のように聞こえるからだろう。しかし、よく考えるとこれは変な表現だ。朝鮮語は、韓国人のみならず、北朝鮮人も使っているから、もし朝鮮語を韓国語で言い換えると、「北朝鮮人は韓国語を話している。」という妙なことになる。日本は北朝鮮を国家と認めていないとはいえ、朝鮮語を韓国語と言ってしまうと、韓国人と同じ言語を話す北朝鮮人の存在を無視することになり、不都合が生じる。

またハングルは文字の名前であって言語の名前ではない。言語を覚えることと文字を覚えることは全く別であるから、混同するのは不適切だ。朝鮮語をハングルと言い換えるのは、まるで英会話講座をアルファベット講座と言うようなものである。

いろいろな事件によって、私たちは朝鮮が差別語であるかのように思ってしまっている。しかし、朝鮮をあえて言い換えることが非合理的であるときもあるし、問題を見えにくくするときもある。

・年号は日本にしかないからうれしい

　五月に元号が変わった。その際に改元を喜ぶ人はしばしば「年号は日本にしかないからうれしい」と言った。よく考えるとこれは変である。なぜなら、日本にしかない独自の物でもあまりうれしくないものはたくさんあり、論理的説明になっていないからだ。例えば納豆は日本にしかないが、その匂いが嫌いな人にとってはうれしくない。そのため、「納豆は日本にしかないからうれしい」と言うと、納豆があってうれしい理由の説明にならない。そうではなく、「おいしいから」、「体にいいから」など納豆の持つ性質・効用を具体的に説明しなければ理由にならず、他人に自分の納豆好きを伝えられない。年号も同様に、日本独自のものであるからうれしいだけでは、なぜうれしいのかが人に伝わらない。

グローバル化が進んだ現代においては、年号を知らない外国人に改元の喜びを伝える必要も出てくるから、年号がうれしい理由をもう少し論理的・説得的に説明せねばならない。

・KPOP

KOREAは高麗、朝鮮、韓国を一度に示すわかりにくい言葉である。例えば、韓流の一つとして、韓国の流行音楽をK(KOREA)POPと呼ぶ。仮にKOREAを朝鮮と訳すと朝鮮ポップになり、言葉の上からは北朝鮮の音楽も含むことになる。しかし、モランボン楽団などの北朝鮮音楽をKPOPに含めることは少ない。また、韓国の流行音楽をSOUTH　KOREA　POP、略してSPOPと呼ぶこともないことから考えて、KOREAは韓国の意味であろう。しかし、KOREAは日本では韓国と北朝鮮を意味するのに、KPOPの場合のKOREAだけは韓国を意味するのである。不思議だ。

・平成史

　明治以降の一世一元の時代の歴史は、教科書などでは年号で区切って説明されるが、これは不思議である。例えば、大正天皇の崩御は確かに当時の人々にとっては大きなことであったろう。しかし、大正・昭和で分けるよりは、第一次世界大戦、世界恐慌、敗戦、冷戦終結で細かく区分した方が、近代化の進展過程がわかりやすく、世界史と連動させて考えやすい。また、台湾や朝鮮にとっては、異民族支配の継続と支配者の死は関係ないのだから、明治・大正・昭和で区切る必要はない。

確かに、日本は明治以降立憲君主制になったから、在位期間全体に及ぶ君主の影響は大きいかもしれない。しかし、どう見ても君主に関係のない、社会主義運動史や経済史まで、君主ごとに区切る必要はあるのか。

・変人は誉め言葉です

　高校時代に数学の先生から人格否定の文脈で変人呼ばわりされていたので、私は変人が誉め言葉たりうるとは思えない。曲がったキュウリよりもまっすぐなキュウリを、変人よりも機械を、世間は求めているのかもしれない。

・手羽先

　鳥に手はないから、羽先と呼ぶ方が正確であろう。

・新年号は初めて国書から採用したからうれしい

　新元号発表後このように言う人を見かけた。そう述べる人は、大化以来の漢籍由来年号はうれしくないと思っているわけではない。漢籍から採用しても日本は中国の属国ではなく、中国と同じ年号を使ったこともあるから、年号の由来を気にする理由はどこにもない。日本独自のものを使ってうれしい理由は、一体どこにあるのか誰も論理的に説明できないはずだが、改元前後には論理などという野暮な問いを発する者はいなかった。

・KKK

　国際高等教育院という建物を略してKKKと呼ぶ人は多い。確かに、DVDやATMなどのようにアルファベット三文字で略したくなるのはわかる。だが、KKKは米国の黒人迫害組織の名である。それを建物の略称として使うのは黒人留学生への配慮を欠いているように思う。

・タテカン・ジモネタ

　タテカンバン(立て看板)のバンを略してタテカンと言う。しかし、バンを言う手間くらいは惜しまずに、立て看板と言えばよかろう。

　また、ジモトネタ(地元ネタ)を略してこう言うが、シモネタと紛らわしいからトくらい略さずに言うべきである。

・○活

　就活、婚活、終活などが増えて、今や人間の生きる時間は、ほとんど準備活動に追われてしまったように思える。