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Called

更新日:5月6日

『Called』_與円 (2024 NF)


夜の十二時頃、夜勤のバイトから帰っている時、高校の頃の友人から電話がかかってきた。電車の中だからなぁ、などと一瞬考えたが、他に乗客もいないので通話を繋げることにした。

「今日、街の方で飲んでて、酔っ払っちゃって帰る電車間違えちゃったんよ。そろそろ降りる筈なのに一向に着かんなぁって思ってたら、とっくに降りる駅過ぎてて、慌てて電車降りたんだけど、家に向かう電車が五分前に行ったので最後らしいんよ。ここの駅、家からかなり遠くてな。お前割と家近かったっしょ、送ってくんね?」

大学は一緒ではないが、彼は今、私の家からそう遠くない場所に住んでいる。といっても歩くには遠いと感じるほどの距離はある。

「そう言っても、今バイト帰りで電車だからどうしようもない。家に帰ったら迎えに行けるかもしれんけど、今からそっち行ったら多分四十分ぐらいかかるし、そもそも夜運転したことないからあんま運転したくない」

「わかった。ちょっと今時刻表見てたんだけど、今から十分後に家から二キロぐらいの駅に停まる電車が来るから、それに乗って帰るわ。念の為なんかあったら連絡する」

ということで話は落ち着き、私は電話を切った。

数分後、彼から連絡があった。『早めに来たから乗って帰る』とのこと。少し早すぎやしないかとも思ったが、この時間帯にその駅に着く電車は彼が乗ろうとしていた電車だけだ。逃すといよいよタクシーで家に帰ることになりそうな彼は急いでその電車に乗った。やっと家に帰れると安堵した様子の彼に、『寝過ごしたりして違う駅で降りる羽目になったら大変だぞ』とだけ送った。

しばらく経って彼から電話がかかってきた。そろそろ家に着いていてもいい頃だと思いながら電話に出ると、まだ電車の中なのか人々の話し声がうっすら聞こえてくる。

「どうした、まだ電車なのか」

「いや、ちょっとさっきからずっと同じ駅に止まってて……」

「同じ駅に?」

「うん、もう七、八分くらい経ってる」

「さっき早く来たし、その分じゃない?」

「いやでも流石にそれは、うわっ」

「どうした」

「前の車両がない……」

「は?」

「……やっぱり、前後の車両が無くなってて、どうやらこの車両しか残ってないみたいだ」

まずいことになった。彼が何か良くないことに巻き込まれているのは確かだ。

「とりあえず乗ってても動くことはなさそうだし、降りることにするわ」

「駅員さんに伝えた方がいいと思う」

「でもここの駅人がいないんだよな……とりあえず警察に連絡してみる」

彼はそう言うと一旦通話を切り、五分ほどでまた電話をかけてきた。

「とりあえず来てくれるらしい。何か用事があったら後日連絡するから先に帰ってていいよって言われたから、ちょっと長いけど歩いて帰るわ」

と言うことで、一旦電車のことは忘れて家に帰る運びになった。

事態が事態とはいえ、高校を卒業して以来、あまり話す機会がなかった友達との久しぶりの会話は熱が入るもので、二十分くらい話し込んでいた。

「ちょっと待って」

突然話を遮られた。

「どうした?」

「いや、さっきからお前の電車全然駅に停まってないよな?」

そう言われてみればそうだ。もう着いていてもおかしくない頃なのに、降りるはずの駅の二駅ほど前から駅に停まっていない……違う。駅に停まったままだ。毎週乗っているからわかるが、普通はこの駅には停まらない。声が出ない私に彼は続けて言う。

「なのにお前の周り、さっきから少し騒がしくなってきてない?」

そんなことはない。今も電車には自分一人だ。

「いや、他人がいるのに電話しないほうがいいよって言おうとしたら、さっきから駅に停まってないことに気づいて、いつ入ったのかなぁて思ってさ」

「……あのさ、」

「何?」

「お前の周りに誰かいる?」

「一人っきりだけど?」

「いや、側にいなくてもいい、近くで誰か酔っ払いの団体とかが話してたりしないかなって」

「いや、俺一人。人の気配すらないよ、こっちは」

「……なぁ」

「どうした」

「ビデオ通話に切り替えていい?」

「ああ、いいよ」

私は自分側の映像を映らないようにして通話を繋ぎ、画面を見た。

「おい、せっかくビデオ繋ぐならお前も顔見してくれよ」

そう言って笑う彼の後ろには、人の背丈ほどの電柱のような何かが彼を取り囲むように立っていた。




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